2008年12月18日木曜日

辞書執筆者だから気になること

commissionの語法が気になったというマニアックな話です。




The Oxford Guide to Practical Lexicography (B. T. S. Atkins and M. Rundell, 2008, OUP)を読んでいて、次のような文に出会いました。
The marketing department spots a 'gap' on the booksellers' shelves and commissions from the editorial department a dictionary to fill that gap. (p. 18)

このcommissionが気になって辞書を調べたのですが、「…の制作を依頼する」という意味しかありません。
そうすると、上記の文は、「マーケティング部門が書店の書棚の隙間を見つけて、編集部門から(誰かに)その隙間を埋めるような辞書の制作を依頼する」というような意味になることになります。
通じなくもなさそうですが、気になります。
「編集部門にそのような辞書の制作を依頼する」という意味が自然であるように思われます。
そしてその2ページ後にまたcommissionを使った文が出てきます。
The e-dictionary (the electronic version of the dictionary), if there is to be one, is usually commissioned from an outside software firm, who develop the user interface in collaboration with the dictionary planners, ... (p. 20)

これを上記の最初の解釈と同じように、つまり「辞書の電子版の制作は通常外部のソフトウェア会社から(誰かに)依頼される」として解釈するのは無理があります。
その外部のソフトウェア会社そのものが辞書の電子版を作るのです。
そうすると、やはりcommission sth from sbで「sbにsthの制作を依頼する」という語法でないと不自然です。
orderと同じ語法ということです。
実際、"commissioned from"でウェブを検索すると、かなりの用例がこの意味であるように思われます。
そこで手元にある主要な英和・英英辞典(リーダーズ・研究社英和大6・ジーニアス英和大・ランダムハウス・ジーニアス4・プログレッシブ4・コアレックス・エースクラウン・LDOCE4・CALD2・MED2・OALD7・COBUILD5・ODE2)を探したのですが、(私の見落としでなければ)この用法についての記述はありません。
しかし、Oxford Dictionary of Collocationsにはfromを伴う例が載っていました。
PREP. from The report was commissioned from scientists in five countries.

ただし、これではcommission sth from sbが本当に「誰かに何かの制作を依頼する」という意味であるのか、確信が持てません。
諦めかけていたその時、ようやく、(LDOCEにはないのに)『ロングマン英和辞典』にこの用法の記述を発見しました。
sommission sth from sb <人>に<…>を依頼[注文]する

さらに、『ウィズダム英和辞典』(2版)にもありました。
<人などが>≪…に≫<報告書・芸術作品など>の作成[制作]を依頼する; <仕事など>を委託[委嘱 (いしょく)]する≪from≫
The television station commissioned a new drama series. テレビ局は新しい連続ドラマの制作を依頼した.

まさに求めていた記述です。
これは次に関わる辞書ではぜひ入れたい説明です。
ついでに、先日気になって調べたのですが、探した限りでは辞書に入っているのを見つけられなかった表現が、what does it for meです。
「私にとって重要なこと」というような意味でしょう。
主語・補語としてよく使うようです。
そもそもなぜ語順が倒置されているのかも含めて、これについてももう少し調べて、辞書に成句として入れたい感じがします。

2008年12月11日木曜日

「喋る」鳥の秘密

面白い記事を見つけたので紹介。

なぜ人の言葉をマネできる?
オウムやインコの不思議な力

鳥の気管支には、声の周波数を決める“鳴管”という器官があり、オウムたちのそれは、他の鳥よりも格段に発達している。だから、周波数1000ヘルツ以下の人間の声も模倣できるのです

オウムたちは、他の鳥よりも脳が発達しているため単語のように複雑な音でも覚えられるのです。たとえば、『コンニチハ』と声をかけると、すぐにその音を完全に覚え、今度は記憶を頼りに自分で音を発してみます。そして、自分の出した『コンニチハ』と記憶のなかの『コンニチハ』を照合し、ぴったり合うまで練習するのです

さらに、ヨウムは「3歳児程度の頭脳を持つといわれ、人間の言葉でコミュニケーションや意思表示ができる」とのこと。

まず、この記事が学術的に信頼できるものであるのかどうかは分かりませんので、それは頭に入れておくとして、それでも興味深いですね。

2008年11月27日木曜日

BNCwebの改造

BNCwebのバージョンアップに合わせて、改造版インターフェース(未公開)もバージョンアップ。
4.2の正式公開後に、改造版も(ほしい人がいるとは思えませんが)公開したいと思います。

ちなみにこんな感じの画面です。


メニューによるタグ入力支援と簡易(と言いながら長くなってしまった)マニュアルが特徴です。


この改造版バージョンアップの過程で知ったのが、Firefox 3からime-modeのプロパティがサポートされているということです。
Firefox 3 の修正内容のご紹介 その2 ― IE 独自拡張 CSS: ime-mode プロパティのサポート
もとはIEのローカルルールだったようですが、IMEをオン・オフしながら使わなければならない日本語環境ではこの機能が便利であることが多いです。
これで、IE・Firefoxのいずれでも入力ボックスでIMEがオンにならないようにすることができました。

2008年11月25日火曜日

辞書における"fig."レーベルについての論文

今日はこの論文を読みました。
Ayto, J. 1988. "Fig. Leaves: Metaphor in Dictionaries", M. Snell-Hornby (ed.), ZüriLEX ’86 Proceedings: Papers Read at the EURALEX International Congress, Francke, 49-54.

へぇと思った箇所を1つだけ要約して自分の解釈も入れてメモしておきます。
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pseudometaphor(例えばearの耳と穂の意味は同音異義なのにメタファーだと思われている)とdead metaphor(例えばbuffが色からマニアの意味に展開したこと)という両極の間にある多くの比喩的な語義に対して、辞書はうまく工夫すれば効果的にfig(urative)のレーベルを付けて比喩的な語義をわかりやすく示すことができる。
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前者のpseudometaphorについてはLyons (1977)に書いてあるらしいので今度確認しなくては。

2008年11月6日木曜日

BNCwebのアップデート中

BNCwebの作者からバージョン4.2のベータテストをしないかっていうお誘いが来たので、導入してみました。
メールをやりとりすること数往復、いろいろ設定を変えてなんとか導入できました。
不具合の可能性を見つけられたという点では多少の貢献はできたと思います。
またアップデートの手順をまとめて載せたいと思います。

2008年10月31日金曜日

にわとりササミ天丼

今日のお昼は学食で食べてきました。
「鶏ササミ天丼」というメニューがあったのですが、私の次の人はそれを「にわとりささみてんどん」と言い、私は違和感を感じました。

その理由を言語学的に説明してみたいと思います。



ものごとを分類して名付けたものをタクソノミーと呼びますが、その縦軸上で特別な地位を占めるカテゴリーのことを「基本レベルカテゴリー」と呼びます。(同一カテゴリー、つまり横軸上で特別な地位を占めるものは「プロトタイプ」と呼ばれます。)
たとえば、動物のカテゴリーの一部をごく簡単に示すと、次のようになります。
動物
-豚
-牛
-鳥
--鶏
--鴨
--ダチョウ
--・・・
-魚
-馬
-・・・
基本レベルカテゴリーは、詳細さ(下向きの方向)と一般性(上向きの方向)が適度に折り合う点であり、ある事物を初めて話題に出す際に、特に理由がなければこの基本レベルカテゴリーを指す語を用いることが知られています。
で、ここでさきほどの「にわとりささみてんどん」です。
にわとりの肉のことは、鴨肉ではなく、というようなことを強調したいのでない限り、普通は「とりにく」と呼びます。
一方、コケコッコーと鳴く生きたにわとりは、普通「にわとり」と呼びます。「とり」というと、カラスやスズメも含むより上位のカテゴリーを指します。
「にわとりの唐揚げ」なんて言うと、丸々揚げたかのような感じがして、あまり食べたくない感じがします。
つまり、同じ鶏(といっても生きているか食肉であるかは違いますが)を指しているのですが、食べ物について言う場合には「とり」が基本レベルで、動物の個体について言う場合には「にわとり」が基本レベルになっているという違いがあり、「にわとりささみてんどん」はそれに反した言い方であったため、奇妙に感じたのではないでしょうか。
別の「とりにく」メニューを食べながらそんなことを考えた昼休みでした。
(なお、基本レベルは地域や文化によって異なります。上記の感じ方はあくまで私個人の感じ方です。)

2008年10月27日月曜日

英文ニュースで速読の練習ができる『Spreed News』

英文ニュースで速読の練習ができる『Spreed News』

速読能力向上を助けるウェブサービスです。
ニュース記事を数単語ずつに区切って、それぞれを短い時間だけ表示して、次々に新しい数単語を表示していくというシステムです。

実際にお試し機能で試してみたのですが、アイディアはよいのですが、利用にアカウントが必要なことと、英文の切り方が適当なことなど、今ひとつです。
特に後者の問題は深刻です。つまり、ある程度意味的・統語的にまとまった単位に切っていけば効果も高いのでしょうが、短い単語列であれば3単語くらいに、長い単語が含まれていれば1~2単語に切られて表示されていく今のシステムには改善の余地が大きいと思います。

2008年10月22日水曜日

BNCwebのアップデート

BNCweb
An updated version of the scripts will be available for download before the end of October 2008.

ということで、最新版の4.2のソースコードが間もなく公開されるようです。

それから、制限付きながら、登録すれば誰でも無料でランカスターのBNCwebサーバーを利用できるようになりました。
詳細はこちら
これは多くの人にとって有益でしょう。

さらに、 Corpus Linguistics with BNCweb - a Practical Guideという本が出るようです。
現時点ではAmazonなどでの掲載はありませんが、近日中に入手可能になると思われます。
購入して読んでみたいと思います。



そういえば、検索ページのインターフェイスの改造版を公開すると言いながら公開していませんでした・・・。
まぁ、本当に需要があるなら「公開して」というメールが来るでしょうから、それがないことを考えると需要はないのかもしれません。
とは言っても、そもそも、日本語で書かれたこんなブログを読んでいる、あるいは検索してたどり着く人がほとんどいないでしょうから、需要の有無と連絡の有無には関係なんてないのかもしれません。

2008年10月4日土曜日

英語コーパス学会に行ってきました

英語コーパス学会のシンポジウム「ESPにおけるコーパス活用の意義と課題」に参加して、ESP教育について考えさせられました。

これまでは、英語の基礎をある程度固めた上で、ESPの勉強をしていくのがセオリーだと思っていました。

しかしながら、シンポジウムで、
・ESP教育の目的は様々なジャンル・目的の英語がそれぞれ異なるということをはっきり知ることである
・ESP教育で基礎的な英語を習得させることも十分可能である
・大学におけるESP教育の目的は、英語教育そのものというよりも、自分で英語を書いたり読んだりするときに使える道具(コーパス検索ツールなど)の使い方をマスターさせることである
というようなことを聞いて、少し考えが変わりました。

1年生あるいは2年生まででしっかり基礎を固めてからESPというのでは、遅い、英語も必修でなくなってしまう、専門科目の勉強で時間がとられて英語の勉強に割ける時間がなくなってしまう、というような可能性を考えると、やはり早期からのESP教育が必要なのではないかという意識が強くなってきました。

辞書(やコーパス)の使い方をマスターして、授業が終わった後も一人で英語を勉強したり読み書きしたりする時に使える道具を身につけてほしいというのが私の信念ですが、そこから一歩踏み込んで、たとえ基礎が不十分でもESP教育の中でそれを固める方法についても検討していく必要があると思いました。

2008年8月1日金曜日

複数のテキストファイルをまとめて印刷する

75個のテキストファイルをなるべく少ない枚数で印刷したいと思いました。
つまり、A.txt(1ページ)・B.txt(2ページ)・C.txt(1ページ)を両面各2ページ割付で1枚の紙に印刷するということがしたかったのです。
ところが、いろいろ調べてもフリーでそういうソフトを見つけることができませんでした。

そこで考えを変えて、まず1つのテキストファイルにまとめて、それを印刷しようと考えました。

さて、それを自動でやってくれるソフトは・・・と検索すると、Windowsコマンドで簡単にできることが分かりました。
1つのフォルダにある全ファイルをまとめるのであれば、
> type *.txt > foo.txt
とやればいいのです。

これで幸せになれました。

2008年7月24日木曜日

データ処理の日々

こんなページを見ている人は知り合いしかいないだろうと思って、4月にこっそりプロフィールページだけ書き換えていましたが、就職をしてまもなく4ヶ月です。
恵まれた環境で充実した日々を送っています。

5月の連休では風邪をひいて苦しんだり、2週間ほど前にはノロウイルスらしきものにやられて救急車を呼ばなければいけない直前までいったりもしましたが、健康で文化的な生活を送っています。

最近は論文や辞書のためのデータ処理の日々です。
研究室のLinuxサーバー(AP1000を自宅から持ってきてCPUをBE-2400に換装し、メモリを3GBに増設したもの)がうなりをあげていて、ちょっとうるさいです。

データ処理もなんとか目処がついたので、今月末締め切りでありながらまだ1ページも書いていない論文に着手せねば。

Active Perlで改行コードがLFのファイルを出力する

WindowsのActive Perlで\nを出力すると、CR+LFが出力されてしまいますが、場合によってはLFのみを出力したい場合もあります。
その簡単な方法です。

open OUT, ">foo.txt";
などの次に、
binmode (OUT);
という1行を入れるだけで、\nがLFとして出力されるようになります。